HОWS講座の報告から
関西生コン支部への弾圧を許すな!(抄)
財界・国家権力一体となった組合潰しに負けない 

小谷野毅(全日本建設運輸連帯労組書記長)

 全日建連帯労組の関西地区生コン支部に対する異常な弾圧が続いている。六月二十六日のHОWS講座は全日建の小谷野毅書記長を招き、その実態と権力の狙いについて報告を受け同労組への支援を参加者全体で確認した。以下は質疑での応答も加味した報告の抄録である。 【文責=編集部】

 わたしたち全日本建設運輸連帯労組は一九八四年十一月に旧・全日建(全日本建設産業労働組合)と関西地区生コン支部とが組織統合して結成された。旧・全日建は土木の建設現場で働く日雇いや下請け労働者、クレーンなど建設機械のオペレーターを組織しようと一九七一年に総評が作った単産。生コン支部はセメントや生コンクリートの運搬労働者が中心。合併後は、建設現場で働くダンプカーの運転手、クレーンなど重機のオペレーター、トラック運転手も増えている。

全日建連帯とはどういう労組か

 大きな特徴は個人加盟方式をとっていることだ。日本の労働組合の多くは会社別に、しかも正社員だけで構成されている。アルバイトや派遣は同じ会社で働いていても組合員になれないところが大半。最近、正社員以外も「会社に刃向わないように」加入させるケースも出ているが、基本的には正社員だけの組織だ。わたしたちの組合は雇用形態がどうであれ同じ権利を持つ組合員として活動できる。
 もうひとつの特徴は業種別・地域別に企業横断的に支部を作っていることだ。一七都府県に八つの支部、三五〇ほどの分会、約三〇〇〇人が加盟している。労働契約法二〇条裁判を闘ったハマキョウレックスと長沢運輸の労働者も連帯の組合員である。運動方針の特徴は会社ごとの交渉で労働条件を決めるのではなく支部が一つの業界で集団交渉をやって業種別労働協約締結を目指す。生コン労働者であればどの会社で働いていようと同じ賃金、同じ労働条件を目指す。日本ではきわめて異質だと思う。同じ形態をとっているのは船乗りの海員組合と港湾で働く全港湾。欧米ではこういう産業別労組が一般的なのだが。
 労働者と会社経営者との利害は相容れない。しかし建設業とかセメント・生コン業は大企業の下請けが多く、直接の使用者とケンカするだけでは労働条件が決まらないし雇用の安定も果たせない。中小企業とは利害が一致するものについては共闘する。「一面共闘・一面闘争」で反独占の産業政策を推進する。一九五〇年代に社会党や総評が理論として打ち出して、しかしなかなか実践されなかったものだ。ナショナルセンターにはどこにも所属していない。平和フォーラムと交通運輸に特化した大きな産別である交運労協に加盟している。あらゆる労働組合・政党と共闘する方針で活動している。

関西地区生コン支部の取り組み

 関西地区生コン支部は全日建連帯の中核的組織で近畿二府四県に約二五〇分会、一五〇〇人ほどの組合員。著しい特徴は日雇い労働者が多いことで約四〇〇人いる。運転手はかつては生コン工場の正社員だったが下請け化が進み工場の専属の輸送会社に日雇いで働くようになった。工場から「明日○人出してね」と言われると労働組合から労働者を供給する。派遣と似ているけれど違うのは派遣会社は派遣料金から手数料を中間搾取するが、労働組合は無償で行なう労働者供給業だ。一九六五年に五つの職場、一八〇人で結成された。どの会社に勤めていても同じ労働条件で働かせろという業界横断的な労働条件決定の仕組みを目指して一九七二年に集団交渉を始めた。企業同士の競争に労働者を巻き込ませないためだ。どの会社にいても同じ労働条件なら、企業の従業員としての意識より、同じ生コン労働者だという連帯意識のほうが育ってくる。
 七〇年代の二度のオイルショックをへて生コンは業界が丸ごと潰れるんじゃないかという不況に見舞われた。工場の数が多くて仕事の取り合いになり、ダンピング、倒産が続く。そこで国が構造改善事業を実施するのだが、組合はこれにただ反対という立場はとらなかった。どのみち仕事がないのだから、経営の苦しい企業相手に闘うだけでは労資ともに沈没してしまう。閉鎖する工場の労働者の雇用を業界が責任を持つなら協力する。閉鎖した工場の仕事が存続する工場にまわってくるからそこに雇用を引き受けさす。そうすれば工場の数が減っても労働者は首を切られない。雇用を第一義とすることについて一九七八年に業界団体と協定を結んだ。これで労組の力がぐっと強まった。労働組合がウンと言わないと業界は集約できない。何ごとも進まない。この力を背景に一九八一年、賃金・労働条件の統一(企業間で競争をさせない)、生活最低保証制度、産業別年金制度創設など三二項目からなる協定を業者団体と結んだ。
 関生支部が企業の枠を超えた産業別・職種別の統一交渉を実現している基礎には、労働組合側は企業別の分会ではなく関生支部が統一的交渉権を持ち、資本の側にも個々の経営ではなく経営者団体を交渉窓口とさせて集団交渉を実現してきた。
 これに財界が激怒する。労働組合と中小企業、下請けが手を組んだ構図になるからだ。大企業は下請けを超過収奪することで儲けてきたのに関西ではそれができなくなる。当時の大槻文平日経連会長(三菱鉱業セメント会長)が関生支部を名指しで「資本主義の根幹を揺るがす運動は許せない」と批判した。大阪府警の中には五〇人の専従捜査班が作られ、どうやって弾圧するか知恵を絞った挙句、会社に被害届を無理やり出させ、労働組合が争議でとった解決金を「脅し取られた」「恐喝」にする構図を作る。現在の原型だ。組織が半減するほど攻撃を受けたが、前述のように一九八四年に旧・全日建と全日建連帯を結成して組織力を回復させていった。

中小企業を協同組合に組織

 一九九〇年代の初頭、バブル崩壊後の不況に業界のほうから再建のために協力してくれと頭を下げてきた。
 生コン産業は一九五〇年代に誕生した当初はセメントメーカーの子会社でセメントの販売手段であった。高度成長期に中小企業が乱立し全国に五〇〇〇工場くらいあったのが現在では三〇〇〇工場ほどである。一工場あたりの労働者数は一〇人前後の零細業者だ。大企業のセメントメーカーには材料のセメントを高値で売りつけられ、ゼネコンには生コンクリートを安く買い叩かれる。大企業の狭間にある産業で、大企業の収奪と闘うという点では労組と業者の利害は一致する。ではどうやって中小企業を運動のパートナーにするか。協同組合に組織化することだ。労働者はバラバラでは労働力商品の安売り競争を強いられて買い叩かれるから労働組合を作って競争するのをやめようというのと中小企業の協同組合はまったく同じ原理だ。個々バラバラで営業するのではなく、協同組合を通じて受注し、販売する。組織率が高まるほどゼネコンに対して対等な力関係を持つようになる。買い叩かれない。だから大企業は協同組合を蛇蝎のごとく嫌う。われわれは中小企業を説得し、言うことを聞かなければ抗議行動をする。ストライキをやって協同組合に勧誘し組織化した。一九九四年に作った大阪広域協組は最初三五%くらいだった組織率が二〇一五年にはほぼ一〇〇%になった。一六四社一八九工場で日本最大規模、兵庫県の一部も合併している。

二〇一七年の輸送ゼネスト

 すると何が起きるかというと生コンの値段が安定する、のみならず段々上がってくる。一立方メートル一万円だったのが現在は一万八〇〇〇円台だ。そこで私たちが要求したのは、工場は利益が出る体質になったのだから下請会社の運送労働者を正社員にしろ、運賃、労働者の賃金を上げろ。ところが広域協は下請け運送業の運賃を上げない。それでは運転手の賃金が上がらない。そこで二〇一七年十二月に①運賃引き上げの約束を守れ、②大阪広域協組の民主化を要求して輸送ゼネストを行なった。それまで六つの労組で関西生コン関連労組連合会を結成して集団交渉していたが、関西生コン支部と全港湾大阪支部がストを実施した。それに大阪広域協組が「逆ギレ」する。「関西生コン支部を一掃する」と呼号して、そのために予算一〇億円計上を二〇一八年一月の総会で決議したと称している(実態は怪しいのだが)。理事長は一〇億で足りなければ二〇億でも三〇億円でもと声を張り上げているが、売り上げからひねり出す金だ。ほんらい働く者に還元すべきなのに組合弾圧に使うという。雇われたレイシスト(旧・在特会)が街宣車を繰り出して現場にやってきて連日悪態をつき、組合事務所を襲撃して組合員を殴る。争議の場で一番激しく衝突しているところを部分的に切り取ってユーチューブに流し、「関西生コンはゆすり・たかりのプロ集団だ」とデマる。
 広域協組は関西生コン支部の組合員が多い生コン工場には仕事を割り与えず兵糧攻めにする。連帯労組に協力的な業者を除名処分にすることまでやったが、これは仮処分裁判で無効(大阪広域協組側の敗訴)が決定している。日々雇用の組合員を使うな、連帯系の輸送会社を使うなと協組加盟工場に強制する。これによって現在数百人が失業状態だ。

スト計画を話し合ったことが

 今回の刑事弾圧は二〇一八年七月、滋賀県警から始まった。九月に大阪で組合員一六人が威力業務妨害で逮捕されたのは一七年十二月の輸送ストライキのときの行動が逮捕理由である。つまり現場で何かトラブルがあってその場で逮捕されたというのではない。ストのときはトラックの運転席の斜め横から運転手にストに参加するよう呼びかけを行なう。正面に立ちふさがって車を止めては威力業務妨害にひっかけられる恐れがあるがそういうことはやっていない。一七年十二月の時点では大勢の警官がいる前で特に問題も起きていないのに九か月もたってから事後的に逮捕理由にされた。十一月に大阪で委員長はじめ四人が威力業務妨害で逮捕されたのはストの計画を話し合ったというのが理由である。共謀罪に限りなく近い。六月現時点まで一二回にわたって延べ七五人(組合員六七人、事業者八人)が逮捕されている。

コンプライアンス活動を目の敵に

 滋賀県警で担当しているのは組織犯罪対策課。暴力団・ヤクザ対策だ。組合のコンプライアンス活動を対象にしてきた。現場で法律違反がないかと巡回するパトロール活動である。クレーンの倒壊事故につながるような危険な作業をしていないか、ガードマンをちゃんと配置しているか、自分たちが処理すべき汚水や泥を側溝に流していないか。安売り生コンを使っている工事現場はダンプカーのタイヤがすり減ったりしているなど危険だ。それを組合がパトロールして違反があれば役所か警察に通報して指導させる。これを建設現場は嫌がる。脱法の巣だからだ。しかし放置しておいたら、そこで働いている労働者の安全や消費者の利益にかかわる。作業効率を上げるために水増ししたコンクリートを使っていたら、いざ地震が起きたとき大変だ。コスト競争をしている中で安全の手抜きが経費削減になる。それをやらせないコンプライアンス活動は産業別労働組合の活動のイロハだが、ゼネコンはこれをいちばん嫌がって恐喝行為にすり替えようとする。そんなゼネコンの本音を警察が代弁しているのが今の刑事弾圧だ。
 京都ではアルバイトの男性を正社員にするよう要求したことや保育園に提出する就労証明書に押印を求めたことが強要未遂にされている。会社が偽装閉鎖し団交にも応じないので不当労働行為だと労働委員会に救済を申し立てた。純然たる労働争議であり労働委員会も和解に向けて動いているところに府警の暴力団対策専門が介入してきて、争議を仲介した協同組合理事長まで「恐喝未遂」に仕立ててしまう。きわめつけにひどいケースで、これでは団交を拒否している会社に抗議行動ができなくなる。

共謀罪のリハーサルを許すな

 これまでも刑事弾圧はあった。しかし逮捕した組合員に組合をやめろと言う例はあまりなかった。ところが二月に滋賀県警が逮捕された一五人はビラを撒いていただけなのだが、この人たちに警察は「事件」そっちのけで組合をやめろとそればかり言っている。裁判官は業者の被告人質問で「関生支部と手を切らなければ実刑判決」と。大阪では逮捕された組合員の家族に組合を辞めるよう夫を説得しろと公安検事が携帯で電話をかけまくった。
 弾圧の本質は三つある。
 第一は憲法二八条(労働基本権)と労組法一条二項(刑事免責)を警察・検察・裁判所が一体となって蹂躙している。
 第二は自民党改憲草案を先取りした産業別労働運動の敵視だ。会社の中で活動するのが労働組合だとしてコンプライアンス活動はやらせない。ピラミッド型の大企業支配を脅かすような労働運動は認めないというのである。
 第三は共謀罪のリハーサルということが非常に強く意識されている。
 保釈されてからも逮捕された者同士が会ってはならないとか組合事務所に行ってはいけないと条件を付けてくる。組合運動そのものの禁圧、組合つぶしだ。これに屈したら権力は味をしめてあちこちで同じことをやり出すだろう。負けられない闘いだ。

(『思想運動』1043号 2019年8月1日号)