HOWS講座
モンソン臨時代理大使を迎え開催
キューバ、共産党第八回大会を終えて 
                        
 本年四月十六日~十九日、キューバ共産党第八回党大会が開催された。この党大会をテーマに、六月二十六日(土)、クラウディオ‐モンソン駐日キューバ共和国臨時代理大使を迎えHOWS講座を開催した。ラミレス大使がキューバ本国に一時帰国されたため臨時代理大使を務める激務のなか講演をいただいた。また、パトリシア‐フレチージャ書記官にも参加いただいた。
 報告の後、講座受講生と活発な質疑応答が行なわれた。まず、報告の内容を紹介する。

報告①第八回党大会

 本題に入る前に、二つ良いニュースを報告する。一つは、一週間ほど前、研究中のコロナワクチン候補の一つである「アブダラ」が承認された。その有効性が九二・二八%で、世界的にも高い。もう一つは、三日前の国連総会でキューバが提案した「米国の対キューバ経済封鎖解除」決議案が一八四か国の賛成で決議された。反対は米国とイスラエルの二か国、棄権はコロンビア、ブラジル、ウクライナの三か国、退席が四か国であった。全世界の人びとの支援に感謝する。
 本日のテーマは、「キューバ共産党第八回党大会」である。党大会の内容と大会以前そして以後の動向を報告する。
 党大会には七〇万人の党員の代表として三〇〇人の代議員が参加した。新型コロナパンデミックのため、通常の三分の一以下の人数である。党員数は、前回の党大会と比べて二万七〇〇〇人増で、最近の数年間、年間三万九〇〇〇人の新規入党者があった結果で、新党員の三分の一は三五歳以下である。
 党大会は、キューバでもっとも重要な政治的出来事の一つで、そこで国の政治・社会・経済の基本路線に大きく影響する決定がなされる。しかし、党大会ですべてが決定されるわけではない。党大会の前後にさまざまな機関で論議がなされ決定や必要な変更が行なわれる。
 すべての党大会は、歴史的継続性を保ち、方向転換が行なわれたことはない。
 第八回党大会は、二〇一一年から始まった「経済・社会モデルの刷新」として知られる政治・経済プロセスの一環である。その意味で、同様に捉えることのできる第六回党大会(二〇一一年)、第七回党大会(二〇一六年)と直接的なつながりをもつ。
 第八回党大会ではテーマ別に三つの委員会に分かれ討論が行なわれた。
 首相を責任者とする第一委員会で、二〇一一年以降キューバで行なわれている経済・社会モデルの刷新プロセスが分析された。過去一〇年間、モデルの刷新はキューバの国内経済政策の中心的なプロセスであり、国民投票や国民討論をしながら実施されてきた。

報告②経済・社会モデルの刷新

 「経済・社会モデルの刷新」の内容を簡単に述べると次のようになる。
 経済計画を修正し、行政の直接的メカニズムに代わって、マクロ経済政策による間接的メカニズムを優先することである。そのためには、全国民による社会主義的所有(国営企業)を主要な生産手段の基本的所有形態として保ちながら、市場メカニズムを拡大させ、民間活動の役割を拡大させる。
 二〇一一年の第六回党大会は、二か月間の大衆討議の後、「党と革命の経済・社会政策基本路線」提案を承認した。これはモデルの刷新についての綱領的文書である。
 この大衆討議には八〇〇万人を超える人びとが参加し、三〇〇万件を超える発言があった。共和国市民による提案をもとに文書の六八%が修正され、党大会で採決された。
 二〇一六年の第七回党大会は、刷新過程の理論的基盤となる「キューバの社会主義的発展の経済・社会モデルの概念規定」が採決された。また、二〇三〇年までの経済・社会発展計画も採決された。これは中長期の戦略的観点から、キューバ経済の構造的問題を解決しようとするものである。また、「党と革命の経済・社会政策基本路線」も更新された。
 しかし、二〇一六年以降、米トランプ政権のもとでのかつてない封鎖強化や新型コロナパンデミックなどの外部的な要因によりキューバの経済状況は悪化し、刷新プロセスの促進に悪影響を与えてきた。
 このような状況下で間接的メカニズムを優先して直接的メカニズムを少なくしてしまうと国の再分配する力が減少してしまう。
 われわれは、間接的メカニズム(市場経済)を主に行なう考えはない。
 市場経済は、生産を合理的にする可能性がある。市場経済をうまく活用し、弱者が出ないようにすることがわれわれの任務である。社会主義経済が主で、そのなかに部分的に、制限して市場経済を導入する。
 しかし、経済状況が厳しいと市場経済の導入は逆効果になる。市場経済を主にすると格差が生じる。
 資本主義社会では、この格差は合理的なものである。貧しい人がいれば、安価な労働力を企業が活用し、経済の成長が可能となる。
 社会主義キューバでは、人びとの生活を守りながら経済が発展することを基本とする。党大会の前の数か月に、刷新を促進させる大事な政策がいくつか取られた。
 「通貨・為替制度の整備」過程の開始。/自営業の範囲を大幅に拡大(一二七業種から二〇〇〇業種以上に)。民間の中小企業の導入を発表、法的枠組みの構築。/農業生産と販売をより柔軟にする新しい法的枠組みの発効。/農産物を増やし国民の需要を満たすための六三の措置。/輸出を促進するために、外国貿易の法的枠組みをより柔軟化。/外国投資を奨励し、その許可の遅れ、あるいはその運営上の障害を排除するため、外国貿易省のいくつかの決議を修正。
 「刷新」における今までで一番重要な進展は二〇二一年一月に始まった「通貨・為替制度の整備」である。
 二重通貨と二重為替レート制度の廃止により国民の基本消費を保護していた暗黙の物価補助金のメカニズムをなくす。/補助金の廃止に伴う物価上昇は、労働者と年金受給者の収入増加で相殺される。/その結果、国民の消費ニーズは個々の収入により満たされなければいけない。/これにより、経済がマーケットシグナルに対応できる環境が作られる。
 この環境では、より間接的な経済管理メカニズムが可能になる。しかし、これにより自動的に直接的メカニズムから間接的メカニズムへの移行が行なわれるわけではない。あくまでもその環境を整えるための政策である。
 これ以外にも、価格上限、蓄積を制限する措置、配給制度の継続などの直接管理措置により再分配が行なわれる。

報告③第八回党大会における経済的課題

 党大会の第一委員会では「基本路線」について、二〇一一年からの施行状況が分析された。
 第六回党大会以降に承認された二四四の政策、および第七回党大会で更新された「党と革命の経済・社会政策基本路線」のうち、三〇%が既に施行され、四〇%が施行中、残り三〇%が提案・承認段階にある。
 この問題を分析する際には、先に述べた外部的要因が重要である。経済封鎖やパンデミックのもとでは、この政策をへたに進めると危険が伴う。そのうえで、これに影響する内的要素が挙げられた。
 過剰な官僚主義。/不十分な経済資源の管理。/生産性と効率の向上を制限するほかの違法行為。/構造的問題=十分なインセンティブを提供しない経済モデル。また、二〇二一年一月から始まった「通貨・為替制度の整備」プロセスにおける問題も分析された。
 実行を担当したさまざまなレベルでの幹部の不十分な準備と専門的な訓練。/不十分なコミュニケーションと説明による一部の国民の理解不足。/電気、水道、ガス、労働者の食堂などの公共サービスの過剰な価格設定に対する批判(これらの多くは国民の意見を取り入れて修正された)。/賃金改革に関連した誤り。分析の結果「キューバの社会主義的発展モデルの概念規定」の更新、および「党と革命の経済・社会政策基本路線二〇二一~二〇二六」がそれぞれ承認された。
 この二つの綱領的文章からは今後のキューバの経済政策の路線を読み取ることができる。それらに含まれる主要な点は下記のとおりである。
 ●さまざまな形態の所有と経営を認め、多様化させる。
 ●社会主義的国営企業を経済の主体として強化する。
 ●国家は全経済勢力の監督、調整、規制的な役割を果たすが、同時に諸権限の地方分散化を進める。
 ●市場を認め、規制し、その適切な機能を達成する。その目的は、中央指令的行政措置がマクロ経済的政策と連動し、さまざまな経済的勢力が社会全体の利益に沿う形で意思決定するようにする。
 ● その一環として、生産者または販売者が所有や経営の形態にかかわらず、投機など悪しき商習慣を防ぐ必要があると強調。
 ●経済の構造的諸問題の解決に向けて前進する。特に農牧産品を中心に食料の生産と販売を促進する。エネルギー供給構造に占める再生可能エネルギーの比率を高める。輸出および効果的な輸入代替の拡大、観光業の回復と促進、外国からの直接投資の推進。
 ●必要な調整を加えた上で、「通貨・為替制度の整備」を進める。目指すところは、経済運営における金融手段のいっそうの活用を進め、主要なマクロ経済バランスの達成に向けて前進すること。

報告④世代交代と継続性

 党指導部の構成が更新され(政治局、書記局、中央委員会)世代交代が起こった。一九五九年の革命の勝利を導き、以後キューバを率いた世代が完全に引退して、革命後に生まれた人物が、国家と党の指導者に就任した。
 しかし、実質的には大きな変化はない。キューバでは近年、政治的要職の人事交代が着々と順序だてて実行されてきた。
 政府の要職での世代交代は既に行なわれていた。ディアスカネルは二〇一八年、国家評議会議長兼閣僚評議会議長に就任し、二〇一九年、新憲法で創設された大統領職に就任した。
 それに伴い、指導者個人の影響は小さくなった。それは、集団指導体制へ移行し、機能を分担し、制度化を進めるという論理に従ったものであった。
 また、党の新指導部は、これまでと同じ原則と考え方を継承すると明らかにしている。刷新プロセスは、革命世代が政治的要職に在った時期に始まりかれらにより推し進められてきた政策でこの一〇年の間その性質に変化はない。
 変革の速度は指導部の意思、考え方によって決まるものではなく主にキューバ国内外の経済状況によるものである。
 この中でもっとも影響をおよぼしているのが米国の経済封鎖である。なぜなら、キューバは国際貿易への依存度が高いため、経済封鎖によって国の外貨準備にかかる重大な圧力は直接国民の生活レベルに反映される。
 革命世代も現指導部もショック療法を取らず、「誰も見捨てない」ということを不変の原則として受け止めている以上、国民の生活レベルに圧力がかかれば経済政策の中で中央指令的行政措置を優先することにつながる。

報告⑤その他の結果と留意事項

 次に、党大会の他の二つの委員会の討議内容について述べる。
 複数の指導者による官僚主義、惰性、変革への抵抗が批判され、汚職を始めとする不正事例に対する管理不足も批判の対象となった。また、性的指向と性自認に関する偏見の防止対策を強化する必要性が認められ、より効果的な人種差別防止の取り組みが呼びかけられた。
 これらは重要なメッセージである。なぜなら、これらがマイアミからくる反キューバ宣伝において頻繁に使用されるテーマであるからである。革命の社会的成果と事実を無視して、かれらは、キューバでは阻害されたマイノリティーがいるというイメージを作ろうとしている。
 透明性を持って公然と前述のテーマを扱うということは、キューバ共産党が対キューバ中傷キャンペーンに反論するよりも、こういう課題においてまだ不十分な点への取り組みを優先している表れである。
 重要な考えとして、共産党の指導的役割が再確認された。
 しかし同時に、その機能においてもっとも広範な民主主義を促進し、率直で深い意見交換(常に一致を見るものではないが)を維持する必要性も再確認された。労働者および国民との関係を強め、重要な意思決定における市民参加の拡大をさらに進めることが確認された。
 党の幹部は国民と緊密に連携し、動員と対話の能力を持ち、謙虚さを特徴としなければならないことが強調された。
 問題の最善の解決策を見つける唯一の方法として、集団指導を使用すべきであることが強調された。
 最終的に党大会報告では、キューバの外交政策における主な立場が繰り返し論じられた。特に米国との関係が強調された。
 この意味で特筆すべきは、ラウルの言葉である。
 「わたしは言明する。米国と敬意を持った対話を促進し、新しい種類の関係を構築する意志を。
 その達成のために、キューバに革命と社会主義の原則を放棄させようとすることもなく、キューバが主権と独立に関して譲歩することもなく、理想の擁護、正当な大義に基づく外交政策の執行、諸国民の民族自決権の擁護、そして兄弟諸国への歴史的な支援において、キューバが屈することもなく。」

質疑応答

 八名の受講生から質問および発言があった。その一部を紹介する。

――ワクチンは、たんぱく質系ですか、それとも核酵素系ですか。
モンソン たんぱく質系です。

――キューバの経済改革のなかで、特に、社会主義的所有を第一におきながら市場経済を導入していくというあり方について。ソ連の末期ペレストロイカの時代、五〇〇日経済改革プランに見るように極端な市場経済導入により経済的混乱から政治的混乱となりソ連は一気に倒壊した。また、コメコン時代、ポーランドやハンガリーで市場経済の導入が行なわれた。キューバの市場経済の導入で、過去の失敗を含めた教訓などを含めての論議や、手本となる国があれば教えてほしい。
モンソン 手本というのではなく、幹部や学者を参考となるさまざまな国に派遣している。中国やベトナムだけではなく、シンガポールなどアジア諸国や欧州諸国に。
 ソ連邦の倒壊をわれわれは身近にわがこととして経験した。大きな負担と危険があった。その時の経験から、われわれは、間違ってもショック療法は採用しないと決めている。ショック療法は、マクロ経済、資本主義経済では有効な施策だが。
 新古典経済学、新自由主義的経済学の考えでは、市場経済でどの国も発展できると、日本やシンガポールのように発展すると述べる。しかし、キューバの考えは違う。他の多くの国ぐには市場経済の下にあり奮闘しているがそうなっていない。キューバでも革命以前は市場経済下で人びとはとても耐えられない生活を強いられていた。少数の金持ちのみが豊かだった。
 キューバでも生産性向上が必要である。そのためにインセンティブの活用や市場経済の導入により一定の成果は出る。しかし、キューバは、直接的メカニズムを主にし、そのなかに間接的メカニズムを部分的に取り入れる。そうして、弱者がでないようにする。
 また、間接的メカニズムの導入は、経済封鎖のなかでは困難がともなう。

――国民討議について教えてほしい。報告のなかで第六回党大会の前、二か月間「基本路線」について大衆討議をしたと述べられた。党員だけでなく大衆討議が行なわれたことを新鮮に聞いた。憲法改正の際に大衆討議が行なわれたことは承知している。国民討議は、どういう場合に行なわれるのか、誰が組織するのか、場所や討議時間や参加者の年齢層などを教えてほしい。
モンソン 組織するのは、ケースバイケースである。憲法については、国会。党大会関連は、大衆組織。たとえば学生の場合、キューバ共産主義青年同盟や、大学の場合、並行してキューバ学生同盟がある。そこにはほぼすべての学生が加盟している。また、キューバ女性同盟や労働者の組織、退職者は地域組織など、すべての人をもれなく組織できる。
 場所は、学校や職場、町会など。時間は、キューバの通例の集まりと同じく、開始時刻はあるが、終わりは決められていない。数時間程度の論議が多い。意見がなくなれば終わる。三〇人程度を上限とするのがほとんど。

――自営業が一二七業種から二〇〇〇業種以上に拡大したとのことだが、その状況について教えてほしい。
モンソン 一九九〇年代、ソ連邦が倒壊したときキューバは貿易量の八五%を喪失した。そのとき食料の増産が必須となり、農業を中心に自営業を認め、農業の生産性は増大した。
 自営業種の拡大はそれ以後、論議のなかで必要性を確認してきた。わたしは、今回まで業種拡大が延期されてきたのは、次の事情があると考えている。
 自営業が拡大すると、市場で価格が決定されそのコントロールが出来なくなる。物資の再配分が困難になる。また、外貨準備が不足しかねない。そして、経済的に困難な人たちがでてくる。また、民間部門の拡大は、危機の時は困難である。
 今回、それらを踏まえ将来のために自営業業種の拡大に踏み切った。

――一年半位前からフェイスブックを始め、日本の闘いの紹介などを海外に行なっている。五月三十一日キューバの経済封鎖反対のメッセージを英語・スペイン語・日本語で送付した。一二四名から「支援ありがとう」などの返信を受領した。また、六月二十二日、「キューバ封鎖反対」を掲げた愛犬マルチネスの写真とメッセージを送付し、一二六名から「マルチネスの支援に感謝」などの返信を受領した。どちらも多くがキューバの人たちからであった。
 質問ですが、「二重通貨の解消」で人びとの生活はどうなっているのか教えてほしい。
モンソン 「キューバ封鎖反対」を掲げた愛犬マルチネスの写真とメッセージは、キューバ大使館のフェイスブックにすでに掲載した。
 質問についてですが、経済封鎖のなかで、もともと物資不足もあり生活は厳しい。しかし、電気代や生活必需品は価格が保障され、人びとの生活は守られている。

――フィデルやラウルについてはこれまでよく聞いてきた。ディアスカネル大統領について教えてほしい。
モンソン キューバのなかで人気がある。謙虚な人柄である。これまで数多くの職務についてきたがいずれも評価が高い。一九九〇年代のガソリンが不足する時代、「車は不要」として自転車で通勤した。人びとが親しみをもって感じる人柄である。

――党大会のラウル報告で、「マニエル特別開発区の成果」を強調している。その内容を教えてほしい。
モンソン キューバはこの四年間経済は悪化している。そのなかで、マニエル特別開発区などへの投資金額が増加している。投資企業数も増加している。まだ、操業には至っていないが前進している。
 【まとめ=沖江和博】